研究概要 |
妊娠中毒症は、可溶型VEGFR-1/Flt-1(以下sFlt-1)の胎盤からの異常産生が原因の1つとされており、その発現、作用機序および抑制法の開発は、新しい治療法の確立に需要と考えられる。しかし、Flt-1タンパクは多彩な機能をもっており、不明の点が多い。我々は、Flt-1の全体像を明らかにするため解析した。 1,sFlt-1の遺伝子発現に関する細胞系の検討 sFltは、主に胎盤の栄養細胞層で生産される。マウス栄養細胞の未分化細胞(幹細胞)を培養し、分化誘導に従ってtotal flt-1 mRNAが5倍以上に上昇することを見出した。しかし、ストレス負荷による異常な遺伝子発現上昇はまだ観察されていない。 2,妊娠中毒症のモデル系を作成するため、人為的なVEGF-Aの投与による胎盤への影響、また、sFlt-1過剰状態の母体への影響を検討した。妊娠マウスへのVEGF-Aの投与により胎盤に種々の変化が観察され、一部は妊娠中毒症との類似性が示唆された。sFlt-1投与においては、一過性に血圧の上昇が認められたが、持続的に変化を維持するにはかなり大量投与が必要と思われた。 3,sFlt-1タンパクのVEGF-A阻害物質としての機能を検討した。sFlt-1タンパクを腹水がん発症マウスに腹腔内投与したところ、VEGF-Aの強い阻害とそれによる症状の改善が認められた。妊娠中毒症においては、sFlt-1が生理的に重要なVEGF-Aを阻害し、腎障害などの症状を発揮すると考えられる。 4,Flt-1チロシンキナーゼ欠損マウスを作成し検討した結果、リウマチモデルマウスで炎症症状が著しく改善されることが明らかとなった。従って、Flt-1は炎症性疾患に対する治療の標的となる。また、米国Ambati博士との共同研究により、sFlt-1が哺乳動物の虹彩膜を無血管状態に保つ物質であることを明らかにした。
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