本研究は、消化管特異的に発現するホメオボックス転写因子CDX2及びCDX1の消化管腫瘍における役割を解明し、新たな治療法開発の手がかりを見つけることを目的とした。本研究の成果として、改良型のChIP(Chromatin immunoprecipitation、クロマチン免疫沈降)スクリーニング法を用いて、SLC5A8及びPLEKHG1をCDX1・CDX2の新規標的遺伝子として同定した。Cdxの標的遺伝子とされる遺伝子には、腸上皮細胞の形質発現に必要なタンパクをコードするものが多く、分化や癌化に直接関与しうるものは少ない。SLC5A8のコードするタンパクは、酪酸などの短鎖脂肪酸を細胞内に取り込むNa+共役型トランスポーターで、大腸癌においてその発現が低下しその発現は予後と相関することなどから、SLC5A8は癌抑制遺伝子の候補とされている。酪酸は、大腸上皮細胞の主要なエネルギー源となる一方で、ヒストン脱アセチル酵素阻害薬として作用し多様な遺伝子の発現に影響を与える。大腸癌の発生、悪性化におけるCdx、SLC5A8、酪酸の相互作用が分子レベルで解明されることが期待される。PLEKHG1がコードするタンパクは、そのアミノ酸配列からRho/Rac/Cdc42ファミリーに対するGEF活性を持つDb1ファミリーに属すると考えられるが、この分子に関する研究報告は存在しない。今後、腸上皮細胞の分化、腸管腫瘍の発生、悪性化においてPLEKHG1が果たす役割を解明したい。一方、全てのCdxファミリー転写因子のホメオドメイン内でその前後の配列が保存されているスレオニン残基がPKCζによってリン酸化されることを見出し、この残基のリン酸化がCdx2の2量体形成に関与する可能性を示した。今後、腸管での細胞分化、腫瘍発生におけるCdxとPKCシグナルとの相互作用の役割が解明されることが期待される。
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