研究課題
高脂血症病態下のヒトマクロファージは種々のスカベンジャー受容体を介して変性低比重リポ蛋白(LDL)を取り込んで動脈壁に浸潤し、様々な生理活性物質を産生して粥状動脈硬化症の進展を促進する。細胞内に取り込まれた変性LDLはLAMP2陽性水解小体において分解され、遊離コレステロールとなって小胞体(ER)酵素であるAcyl CoA: cholesterolacyltransferase (ACAT)によってエステル化され、コレステロールエステルとして細胞内に蓄積される。われわれは高脂血症病態のヒトマクロファージにはERに由来する小胞状オルガネラが出現し、本来ERに存在するACAT1の一部はこの小胞状オルガネラに移動することを発見した(Am J Pathol 156:227-236,2000)。高脂血症病態下のマクロファージに出現するACAT1陽性小胞(ACAT1 vesicle)の性質とその機能を明らかにするためにヒトマクロファージホモジネートの細胞亜分画の解析を行ったところ、コレステロール過剰状態のヒトマクロファージでは各種小胞蛋白とトランスゴルジネットワークマーカーであるsyntaxin 6は強いACAT活性を有する低比重分画に出現した。共焦点レーザー顕微鏡を用いた検討では非泡沫化マクロファージではACAT1を含む小胞体蛋白は細胞辺縁部分に分布していたがコレステロール過剰状態ではその一部がsyntaxin 6陽性ゴルジ体領域に移動していた。ACAT1特異抗体を用いた免疫吸着を行ってACAT1陽性オルガネラを単離精製したところ、泡沫化マクロファージの精製ACAT1陽性分画にはsyntaxin 6が含まれていた。syntaxin 6はトランスゴルジネットワークと後期エンドゾームに分布する蛋白であるため、泡沫化マクロファージにおいて一部のACAT1がLAMP2陽性後期エンドゾーム存在する可能性について検討したところ、予想通り一部のACAT1が泡沫化に伴ってLAMP2陽性後期エンドゾームに移動しており、水解直後の遊離コレステロールが後期エンドゾーム内で効率的にエステル化されていることが明らかとなった。以上の結果より、ヒトマクロファージは泡沫化に伴って小胞体の断片化を介してACAT1 vesicleを形成し、このvesicleがトランスゴルジネットワークや後期エンドゾームと癒合することにより小胞体以外の場所でも効率的にコレステロールがエステル化されていることが示唆された。
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