研究課題
サルモネラの病原戦略にマクロファージ内生存・増殖能があり、この機構にはサルモネラ自身が含まれるファゴソームの成熟をSCVと呼ばれる独自の細胞内オルガネラに成熟させ、メンブラントラフィックを変化させることが重要である。しかしながら、閉鎖系であるSCV内でサルモネラがいかにして栄養素を獲得し増殖するのかについては不明である。そこでサルモネラが宿主のオートファジーを利用しているのではないかと仮説をたてた。我々が構築したサルモネラ弱毒株の弱毒化の原因としてマクロファージ内動態の変化が考えられる。本年度はこの機構を詳細に検討するため、マクロファージ様細胞RAW264.7に野生株および各種変異株、ΔClpXP株、ΔDnaK株を感染させ、感染後各時間で固定した細胞の切片を作成し、透過型電子顕微鏡により細胞内の様子を観察した。マクロファージ感染初期に顕著に殺菌されるΔDnaK株は、感染2時間後の切片を観察した結果、ΔDnaK株の周囲には明確なファゴソーム膜が見られなかった。酸性フォスファターゼを指標にリソソームとの融合を検討した結果、感染2時間後に野生株は約13%融合していたのに対し、ΔDnaK株はまったく融合していなかった。さらに、オートファジーの阻害剤ワートマニン、3-MAを用いて増殖能を検討した結果、阻害剤存在下では生存能が増加した。また、ΔClpXP株においてオートファゴソームに特徴的な形態が多数見られ、ΔClpXP株感染ではオートファジーが過剰に起こっていることが示唆された。ΔClpXP株に複製が温度感受性であるプラスミドpHSG422を導入し、細胞内増殖能を検討したところ、ΔClpXP株の増殖能は野生株と同程度であるものの、殺菌に感受性であることが明らかとなった。以上の結果から、仮説とは反し、サルモネラが細胞内で生存するためにはオートファジーに抵抗する必要があると考えられる。
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