チフス性サルモネラは、マクロファージ内でファゴソームの成熟過程を変化させることによりリソソームとの融合を阻害し、特異的なvacuole (SCV : Salmonella-containing vacuole)に成熟させ、その中で増殖する。このようなSCVメンブラントラフィックスはサルモネラの細胞内寄生戦略上最も重要であるが、この機構はまだ解明されていない。最近、宿主細胞はオートファジー機構を使って侵入してきた病原体を排除する報告がなされてきた。本研究課題では、サルモネラのマクロファージ内増殖と宿主細胞のオートファジーとの関連を明らかにするために、昨年度は我々が分離したオートファジーを過剰に引き起こすClpXP欠損サルモネラを用いて細胞生物学的解析を行った結果、サルモネラはマクロファージ内で生存するためには、オートファジーに抵抗する必要があると考えられる結果を得た。 本年度は、ClpXP欠損サルモネラがマクロファージ環境下で、PagCたんぱくを過剰に生産することを見出したことから、PagCのサルモネラ細胞内寄生性における役割を検討し以下の事柄を明らかにした。 1.膜貫通蛋白質であるPagCがOMVとして細胞外へ放出される仮説を立て、これを実証した。種々の変異株の産生するOMVを精製し、電子顕微鏡下で詳細な検討を行った結果、OMVの主要な構成成分はPagCであり、AAAプロテアーゼClpXPがその産生を負に制御していることが明らかとなった。サルモネラはマクロファージのSCVとよばれるコンパートメントで増殖するが、PagCがOMVによって分泌され、マクロファージ細胞質に輸送されることが明らかとなった。 2.PagCはサルモネラ病原因子として報告されてきたが、本研究においてPagC過剰産生によりサルモネラが弱毒化すること、さらにClpXP変異弱毒株がPagCの欠損により強毒化することが明らかになったことから、PagCはサルモネラのマクロファージ内増殖を制御して病原性を抑制するattenuating virulence factorであるといえる。サルモネラの病原性はvirulence factorとattenuating virulence factorにより制御されていると考えられる。
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