近交系が確立され、遺伝子操作が可能なラットにHIVやHTLV-1が感染できるならば、治療法と予防法の開発に大いに役立つ。ラット上皮細胞株、T細胞株、マクロファージ株を含む種々の細胞株における感染の各段階を調べる事により、HIVの増殖に必用なヒト因子の要求性と抑制因子を検討する。そして、同定された因子を発現又はノックアウトするトランスジェニック(Tg)ラットを作成することを目的とした。又、HTLV-1のヒト-ラット種間バリアーとして我々はCRM1を同定し、ヒトCRM1を発現するTgラットを既に作成している。そこで、本ラットへのHTLV-1の感染と増殖効率を調べる事を第2の目的とした。 ラット細胞におけるHIVの増殖過程を調べ、増強因子と抑制因子を検索した結果、以下の結論を得た。(1)侵入過程にはマクロファージにはないT細胞特異的なcyclophilinA依存的な阻害因子がある。(2)ヒトcyclinT1とCRM1の導入によりT細胞で100倍以上のGagの産生増強がある。(3)上皮系細胞では強感染性、T細胞では弱感染性のウイルスが作られる。又、ヒトCD4/CCR5/CXCR4/CRM1/CyclinT1のトランスジェニックラットを作製した。 ヒトCRM1を発現するTgラットのT細胞にHTLV-1を感染させるとヒトT細胞と同等のHTLV-1が産生された。次いで、本Tgラットの個体にHTLV-1感染細胞を腹腔内に接種すると、胸腺へのウイルスの広がりが見られた。しかし、体内ウイルス量には大きな違いが無かった。このことは、CRM1以外に個体レベルでの増殖を決める因子が有る事を示唆している。
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