研究概要 |
本研究は,医療事故防止のために,最近各方面で注目されている電子タグの,ベッドサイドでの注射業務への応用による効果を明らかにするとともに,その効果的な活用法を検討する事を目的とする. 初年度である平成17年度は,研究代表者所属施設において13.56MHzの電子タグリーダーを内蔵した携帯型端末(PDA)を用い,ベッドサイドにおける注射業務施行時に,利用者・患者リストバンド・注射ラベルに内臓した電子タグの読み取りを行っている.これらの情報は無線LANを通じて電子カルテシステムに送信され,医師からの指示内容との照合が行われる.照合結果が正しければ当該注射の実施記録が電子カルテシステムに記録され,取り違えの場合にはPDA上にアラートが表示されるとともに実施入力が出来ない仕様である.本システムを全病棟において運用し,インシデントレポートシステムによる報告内容を分析し,導入前後16ヶ月間の注射関連インシデントを比較すると,導入後に有意にインシデント件数が減少した.特に,「人間違い」関連インシデントは,導入前8ヶ月間では9件の発生があったのに対し,導入後の8ヶ月間では1件のみであった.この事例はシステム導入初期に,電子タグを利用せずに業務施行しようとした事例であり,システムの運用が定着した導入2ヶ月以降のインシデント発生は0件となっている.利用者アンケートの結果でも,本システムの利用による安心感の増加が明らかになっており,インシデント抑止に大きな効果がある事が示唆された.現在,注射混注業務時のダブルチェックにも電子タグの応用範囲を拡大するとともに,バーコード認証との業務量の差異を定量的に測定し,労務負荷軽減への寄与を定量評価する事を試みている.これらの結果は最終年度である平成18年度中に総括的な分析が完了し,電子タグの医療事故防止への効果として報告する予定である.
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