研究課題/領域番号 |
17390153
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
粟屋 剛 岡山大学, 大学院・医歯薬学総合研究科, 教授 (20151194)
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研究分担者 |
加茂 直樹 京都女子大学, 現代社会学, 教授 (10027691)
霜田 求 大阪大学, 大学院・医学系研究科, 助教授 (90243138)
佐藤 純一 高知大学, 医学部, 教授 (70295377)
許 南浩 岡山大学, 大学院・医歯薬学総合研究科, 教授 (70173573)
長田 浩 兵庫県立大学, 看護学校, 助教授 (60316049)
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キーワード | 臓器売買 / 人体資源化 / 人体商品化 / 臓器移植 / フィリピン腎臓財団 / 自己決定 / 自己責任 / 生命倫理 |
研究概要 |
今年度はとくに、究極の人体商品化ともいうべき臓器売買に着目して研究を進めた。具体的には、インド、フィリピン、タイに渡り、現状把握に努めた。インドおよびタイでは臓器売買はアンダーグラウンドで行われていたので実態を知ることは困難であった(二次情報のみ収集)。フィリピンでは腎臓ドナー22人への簡単な聞き取り調査を行った。また、フィリピン政府は実質、臓器売買を促進する新制度を作ろうとしているが、そのための公聴会に参加した。新制度案の概要とそれに対する私見は以下の通りである。 新制度案は、とくに外国人患者にっいては、ドナーへの謝礼等と一人分の(貧しい)フィリピン人患者の移植費用を負担させるものである。具体的には、外国人患者は「フィリピン腎臓財団」にドナーへの謝礼等にあたる必要金額を寄付し、同財団が、プールしたそれらの金をドナー等に配ることになる。これは世界に類を見ない制度である。 以下、私見である。(1)今回の新制度案の関係者は、「売買」と「謝礼」の間で線を引き、「臓器売買は(あまり)よくないが臓器提供に対する謝礼は問題ない」という論理を展開している。しかし、法的視点からは、日本でもフィリピンでも、売買と謝礼の問の線引きではなく、(法で禁止される)「売買」にあたる謝礼かあたらない謝礼か、の間の線引きがなされなければならない。 (2)「貧困者は自己決定によって(自分のために、貧困から逃れるために)自分の臓器を売ってよい」とする考え方の背景には、「貧困は自己責任(=自分のせい)」という考え方がある。しかし、一般論としていえば、少なくともフィリピンにおいて貧困を自己責任とするのはフィクションである。 (3)新制度案の謳い文句の一つに、ドナーの貧困が解消されるということがある。確かに、ドナーは一次的には潤うだろう。しかし、このような一時金(数十万円)を手にするだけではとても貧困の根本的解消にはならないだろう。政府が彼らの貧困を本当に解消したいなら、「臓器売買(ないし謝礼提供)を認める」などという姑息な手段ではなく、(富裕層からもっと税金を取るなどしてそれらの金で教育に力を入れるなど)抜本的な貧困対策を行うべきだ、ともいえるであろう。
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