研究概要 |
本年度は、ストレス応答関連因子(低酸素誘導因子等)と腎固有解毒システム(尿細管薬物トランスポータ群)の機能的連関について急性腎障害モデル動物を用いて系統的に分析・究明し、腎ストレス適応システムについて得られた情報を基盤とする腎障害防御法の確立を目標として研究を実施した. ラット腎臓の虚血再灌流により、血清尿素窒素及び血清クレアチニン値の上昇が観察され、腎障害が認められたが,低酸素誘導因子HIFの発現誘導物質であるコバルト飲水群ではそれらの上昇が軽減されていた。同様に、尿毒症物質インドキシル硫酸は虚血再灌流に伴い血清濃度上昇が観察され、コバルト飲水により軽減することが示された。有機イオントランスポータmRNAは虚血再灌流により発現量が減少すること,P-糖タンパク質mRNAは虚血再灌流後、一過性に発現上昇することを確認した。腎虚血再灌流により、血中インドキシル硫酸濃度の上昇並びに、各尿細管薬物トランスポータの発現が変動することが判明し,これら薬物トランスポータの発現変動は、尿細管細胞に尿毒症物質などが蓄積することを防ぎ、腎障害の進展を抑える防御機構として関与する可能性が示唆された。 シスプラチン(CDDP)誘発急性腎障害時におけるインドキシル硫酸の病態生理学的な役割とともに、AST-120の毒性軽減効果について精査した。AST-120の併用によりCDDPによる腎毒性が緩和されたことから、慢性腎障害時のみならずCDDP誘発急性腎障害時においてもインドキシル硫酸が腎障害の進展因子として一部関与していることを突き止めた。以上の結果から、CDDP誘発急性腎障害並びに中枢性副作用にインドキシル硫酸が一部関与していること,AST-120が毒性防御薬として有用であること示唆された。 本年度に得られた知見を基盤とし,次年度は虚血性急性腎不全及び薬剤性急性腎障害に伴うストレス応答因子の発現変動と薬物や内因性物質の動態との関連、並びに尿細管薬物トランスポータの病態生理学的役割の解明について研究展開を図る.
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