研究概要 |
日本人の平均寿命は,男女とも世界の中でトップクラスとなるに至った。しかしその一方で,急速な高齢化が進み老年疾患の罹患率が上昇している。その主要な原因の一つとして酸化ストレスが注目され,酸化損傷されたタンパク質の増加・蓄積が老化促進につながると考えられているが,老化に伴って蓄積する酸化損傷タンパク質の種類や機能はほとんど解明されていない。本研究では,酸化ストレスによって損傷される個々のタンパク質を機能プロテオミクス解析を用いて明らかにする。本年度は,慢性腎不全を示すコラーゲンIV型ノックアウトマウスの腎臓を摘出しプロテオミクス解析を行い,コントロールに対しノックアウトマウスで19スポットが有意に増加し,33スポットが減少した事を認めた。これらのスポットは,α-チュブリンやRho GDI1などと同定され,慢性腎不全のバイオマーカーとなる可能性が考えられる。さらに,一過性脳虚血において海馬CAI領域では選択的な神経細胞死が起こり,記憶障害に至ることが示唆されている。また,この時強い酸化ストレスが曝露されることもよく知られている。本研究では虚血再灌流を行ったサル海馬CA1領域を用いて機能プロテオミクス解析を行い,各々のタンパク質の酸化損傷度について検討した。更に発現プロテオミクス解析を行い,タンパク質発現量の経時変化についても向時に検討を行った。その結果,細胞死抑制機能が知られているHeat shock 70 kDa protein 1(Hsp70-1)が非常に強く酸化損傷を受けていることを初めて明らかにした。Hsp70-1の顕著な酸化損傷は虚血再灌流における神経細胞死誘導機構に重要な役割を果たしていると考えられる。またDihydropyrimidinase-like2(DRP2)は神経細胞死のバイオマーカーになる可能性が示唆された。
|