本研究の前半では、労働時間が心筋梗塞の発症率に及ぼす影響を仕事の裁量度を考慮したうえで、症例対照研究をつうじて検討しようとした。 統計的なデータ解析が可能な19症例(30-69歳、男性、有職者)、ならびに年齢、性、地域をマッチングさせた対照者79例について、心筋梗塞の発症に対する労働負荷要因ならびに伝統的なリスクファクターの寄与の程度を検討した。 症例群では、対照群に比して、発症前1月間の労働時間、時間外労働時間が長いことが認められた。とくに症例群では、時間外勤務が月45時間を超えるものがあきらかに多く、その差は統計的に有意であった(OR=2.30、p<0.05)。労働の心理負荷要因では、とくに仕事における裁量の自由度に差がみられ、症例群では対照群に比して裁量度が小さいとするものがあきらかに多かった(OR=2.39、p<0.05)。心筋梗塞に対する従来からの危険要因では、症例群では対照群に比べて飲酒習慣のあるものが少なく、喫煙習慣のあるものが多かった。飲酒のオッズ比は3.28、喫煙のオッズ比は2.87でともに統計的に有意(p<0.05)であった。本調査対象では、このように飲酒習慣のないことが危険要因になっていることが特徴的であった。データ数が充足せず、多変量解析は現時点では適当ではないが、裁量度を考慮しても時間外労働の心筋梗塞に対するオッズ比は2.29であった。 また、労働時間ならびに裁量度を含む仕事の心理負荷要因は職業間で差が認められ、各労働負荷要因は職業ごとに大きさが異なり、職業別の心筋梗塞死亡率の差異につながっていることが示唆された。(以上)
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