研究概要 |
本年度は、1)同じく膵管を発生母地としながら,浸潤性増殖を示し予後の悪い膵癌と進展性発育を特徴とし,浸潤,転移を示す事の少ない膵管内乳頭状粘液腫瘍(IPMN)の生物学的違いをもたらす遺伝子を同定し、2)それら遺伝子群の機能解析により膵管の上皮変化に関与する因子、epithelial to mesenchymal transition(EMT)のスイッチ・オン・オフを調節する因子を解析し、悪性転換,浸潤獲得の分子機序を解明することを目的に研究を行った。 その結果、1)正常膵管細胞株で全く発現がみられず、またIPMNにおいて膵癌と比べ発現の低い遺伝子として、homeobox遺伝子群の一員であるMSX2を同定した。2)この遺伝子を、相対的に発現の低い膵癌細胞株のBxPC3に導入して機能解析を行った結果、in vitroにおける増殖能、移動能、さらにソフトアガー上でのコロニー形成能の亢進を認めた。同時に、E-cadherin発現の低下とβ-cateninの核発現の低下を認め、EMTが誘導されていた。また、MSX2強制発現BxPC3をヌードマウスの膵臓に同所移植すると、コントロール細胞株に比べ有意に高頻度に肝転移を示すようになった。一方、siRNAにてMSX2を発現抑制した膵癌細胞株Panc-1では、in vitroでの細胞移動能の低下、E-cadherin,β-cateninの発現の回復、および、ヌードマウスの同所移植による肝転移の抑制を認めた。以上から、EMTを調節している因子のひとつがMSX2である可能性が示唆された。
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