がんの治療の分子標的として、これまで増殖因子受容体やチロシンキナーゼが注目を集めてきた。しかし、これら遺伝子の変異の頻度は低く、阻害薬の適応は限られている。本研究では消化器癌において高頻度に異常を認める、DNAメチル化異常やヒストン脱アセチル化などのエピジェネティックな異常を標的とした治療法開発に向けて、基礎的研究を行うことを目的とする。 本年度は、WNT、Rasおよびp53シグナルに関与する遺伝子群の分子標的としての可能性について検討した。SFRP遺伝子ファミリーおよびDKK遺伝子ファミリーをβ-cateninが活性化している大腸癌および胃癌細胞に導入したところ、TCF/β-catenin転写活性を抑制、細胞増殖の抑制とアポトーシス誘導を認めた。特にDKK1およびDKK2は、TCF/β-catenin転写活性抑制能が低いにも関わらず、強い細胞増殖抑制を示し、non-canonical経路を介したWNT抑制を行っていることが示唆された。また、Rasの負の制御遺伝子であるRASSF2を大腸癌および胃癌細胞株に導入することにより、ERKおよびAKTのリン酸化の抑制を認めた。PIK3CAの変異を認める細胞株では、飴KTのリン酸化を認めず、RASSF2はPIK3CAの上流で機能することが示唆された。また、胃癌におけるメチル化の標的遺伝子をスクリーニングし、Gasdermin遺伝子ファミリーの一つ、DFNA5がメチル化により不活化されていることを明らかにした。DFNA5はp53の標的遺伝子の一つであり、p53の変異がない腫瘍でも、p53の標的遺伝子がメチル化により機能しなくなる可能性を示した。これらの結果より、脱メチル化によりp53標的遺伝子の発現を回復することが可能と考えられた。
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