研究概要 |
種々の心疾患の病態生理において、心臓はポンプ臓器としてのみならずホルモン臓器としての意義が注目されている。特にANP,BNPは大量に合成されているが、微量ながら各種ステロイドホルモンも合成されている。一方、ホルモンの作用の面でも、ステロイドホルモンの心臓における生理および病態生理作用が既存の概念の枠に収まらない可能性があり、我々は検討を進めている。その中で最近明らかにした点は、アルドステロンが高食塩状態に陥った際の心筋細胞の脱水を防ぐ作用を有することである。そこにはNa^+/H^+ exchanger 1 (NHE1)が深く関与している。つまり、細胞内へNa^+を流入させることで浸透圧を整え、一過性に細胞脱水を予防する。しかし、長期になると細胞内Ca^<2+>濃度の上昇のために心肥大が進む。アルドステロンの心筋細胞に対する興味深い一面を見ることができた。 臨床的側面からは、心不全の治療に関する研究を進めている。RA系抑制薬や抗アルドステロン薬は必要不可欠であるが、時に生じるK値の過度の上昇は一つの問題点である。そこで、我々は1,035例の入院患者を対象にK値が如何なる因子に影響されるかを詳細に検討した。その結果、腎不全、糖尿病、RAA系抑制薬の使用がK値を上昇させたが、心不全では寧ろK値を低下させた。これは従来の研究結果とは逆であり、更なる議論が今後必要になってくるであろう。一方、治療の面では急性心不全においてhANPが用いられることが多くなったが、その作用機序には不明の点が未だ多く、当該研究でもその解析を進めた。心不全症例を2群に分け、hANP単独治療群とフロセミド単独治療群とを比較検討した。その結果、両治療群にてほぼ同様の血行動態の改善を認めたが、酸化ストレスの改善作用はhANP群がより大きかった。この作用は仔ラット心筋細胞培養の系における実験でも確かめられ、その機序の解明が今後の課題である。
|