研究概要 |
2002年のNgyuenらがJ Clin Invest誌に報告した研究では、ヒトプロレニンとヒトプロレニン受容体の結合体はアンジオテンシン系とは独立したチロシンリン酸化作用を有することが明らかにされている。そこで、平成17年度においては、プロレニン・プロレニン受容体を分子標的とした治療が、従来のレニン・アンジオテンシン(RAS)抑制薬を越える有用性を示すことを、アンジオテンシン受容体遺伝子欠損マウスに糖尿病を発症させたモデルを作成して、マウスデコイペプチド治療の有効性を検証した。4週齢雄C57BL/6Jマウス(対照)およびアンジオテンシン受容体タイプ1遺伝子欠損マウス(ATKO)においてストレプトゾトシン処置により糖尿病を誘発し、マウスプロレニンハンドル領域デコイペプチド(HRP)持続投与、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEi、イミダプリル15mg/kg/day)治療が糖尿病性腎症の発症を進展に与える効果を検討した。糖尿病12,16,24週においてマウスを断頭堵殺し、血液および腎臓内RASと腎組織変化・尿蛋白を検討したところ、対照マウスよりも発症が遅れるもののATKOにおいても糖尿病性腎症は発症し、その腎症はACEiで抑制されず、HRPで抑制された。さらに、抗マウスハンドル領域抗体、抗マウスゲイト領域抗体を使用した免疫組織染色によって、腎臓内のプロレニンの非蛋白融解的活性化を検討したところ、ATKOにおいて腎臓内プロレニンの増加とプロレニンの非蛋白融解的活性化の増強が観察された。以上の結果より、ヒトプロレニンとヒトプロレニン受容体の結合を介した糖尿病性腎症の発症と進展において、アンジオテンシンII非依存性機序の存在が明らかになった。
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