2002年のNgyuenらがJ Clin Invest誌に報告した研究では、ヒトプロレニンとヒトプロレニン受容体の結合体はアンジオテンシン系とは独立したチロシンリン酸化作用を有することが明らかにされている。そこで、平成19年度においては、ヒト(プロ)レニン受容体遺伝子トランスジェニックラットを作成して、臓器障害の発症と進展を検証した。ヒト(プロ)レニン受容体遺伝子トランスジェニックラットではヒト(プロ)レニン受容体によってラットプロレニンは活性化しないため組織レニン・アンジオテンシン系は亢進せず、ヒト(プロ)レニン受容体の細胞内伝達経路のみが活性化するため、受容体のレニン・アンジオテンシン系非依存性経路の検討に有用と考えられた。その結果、ヒト(プロ)レニン受容体遺伝子トランスジェニックラットでは、6ケ月かけて緩徐に進行する腎症(蛋白尿と糸球体硬化)を観察した。この腎症は腎アンジオテンシンIIの増加と血圧上昇を伴なうことなく発症・進展し、アンジオテンシン変換酵素阻害薬が無効であったが、プロレニンとプロレニン受容体との結合を阻害するハンドル領域デコイペプチドによって有意に抑制された。さらにヒト(プロ)レニン受容体遺伝子トランスジェニックラットの腎臓では、糸球体に一致したMAPキナーゼ系のリン酸化充進を観察した。以上の結果より、ヒト(プロ)レニン受容体遺伝子トランスジェニックラットにおいては、プロレニン受容体依存性にMAPキナーゼ活性化を介して腎症を発症することが示された。
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