平成17年度においては、アンジオテンシン受容体遺伝子欠損マウスに糖尿病を発症させたモデルを用いて、ヒトプロレニンとヒト(プロ)レニン受容体の結合によって活性化する経路に、アンジオテンシンII非依存性経路が存在し、この経路は組織レニン・アンジオテンシン系とは独立して糖尿病性腎症の発症と進展に重要に関与することを証明した。平成18年度においては、ヒト血管平滑筋細胞において、ヒトプロレニン受容体は細胞質内核膜近傍に存在し、プロレニン負荷により受容体蛋白は核内に移動することを確認した。また、ラットプロレニンはヒトプロレニン受容体に結合し、受容体細胞内伝達シグナルを活性化するものの、ラットプロレニンは非蛋白融解的に活性化されないことを発見した。さらに、ヒトプロレニンはヒト血管平滑筋細胞において、プロレニン受容体を介してアンジオテンシンII非依存性にMAPキナーゼ系を活性化し細胞増殖に働くことを示した。平成19年度においては、ヒト(プロ)レニン受容体遺伝子トランスジェニックラットを作成した。このラットではヒト(プロ)レニン受容体によってラットプロレニンは活性化しないため組織レニン・アンジオテンシン系は亢進せず、ヒト(プロ)レニン受容体の細胞内伝達経路のみが活性化するため、受容体のレニン・アンジオテンシン系非依存性経路の検討に有用と考えられた。さらにこのラットでは、6ヶ月かけて緩徐に進行する腎症(蛋白尿と糸球体硬化)を観察した。この腎症は腎アンジオテンシンIIの増加と血圧上昇を伴うことなく受容体依存性MAPキナーゼ経路を介して発症することを見つけた。
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