研究概要 |
孤発性ALSの病態解明、治療法開発には、病態関連分子の発見を出発点としてその分子の動態を把握し、それを反映するモデルを構築することが重要なストラテジーとなりうる。本研究は、レーザーマイクロダイセクション法による脊髄運動ニューロンの単離とcDNAマイクロアレイ解析の組み合わせにより、我々が同定した運動ニューロン特異的な発現変化をきたす分子を出発点としている。これらのうちdynactin1,early growth response3,acetyl-CoA transporter, death receptor5およびcyclin Cの発現動態を残存運動ニューロン数やリン酸化ニューロフィラメントH、ユビキチン化蛋白といった運動ニューロン変性のマーカーとの関連において解析を行った。この結果、dynactin1が孤発性ALSの神経変性過程初期に発現低下を示すことを明らかにした。そこで、この発現変化を培養細胞に再現しALSの疾患モデル作成を試みた。siRNA法によりSH-SY5Y細胞においてdynactin1をノックダウン(KD)し、その影響を各種アッセイによりコントロールと比較検討した。dynactin1-KDにより細胞死が引き起こされることが明らかとなり、その経路としてオートファジーについて検討したところ、autophagosome-lysosomeの癒合障害によるautophagosome形成の促進を認めた。また、ポリユビキチン化蛋白の集積も示唆され、dynactin1 KD細胞ではオートファジーの障害によって、処理しきれないタンパクが細胞内に蓄積することで神経細胞死が生じているものと考えられた。また、ALS患者脊髄運動ニューロンでもオートファジーの障害を示唆する結果を得ており、この細胞培養モデルは孤発性ALSの重要な病態の少なくとも一部を反映したモデルであると考えられる。
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