サイクリン依存性キナーゼ抑制因子(CDKI)の関節内遺伝子導入療法は、滑膜細胞の細胞周期を阻害することによって、関節リウマチ(RA)の動物モデル治療に奏功した。また、CDKIはCDK非依存的にも免疫機能を調節することが知られている。従って、CDKを阻害する小分子を全身的に投与すると、関節炎を改善する可能性がある。一方、化合物Fは、癌治療のために臨床試験に的に広く使われてきた汎CDK阻害薬である。そこで、この化合物Fをヒトとマウスそれぞれの滑膜線維芽細胞を培養したところ、アポトーシスを引き起こさずに、線維芽細胞の増殖をG1相で抑制した。実際にRA動物モデルであるコラーゲン誘導性関節炎(CIA)を起こしたマウスに投与したところ、滑膜増生と関節破壊が阻止された。この治療は、関節炎発症後も有効であった。獲得免疫系への作用を通じたものであるかどうかを検討するために、血清中の抗タイプIIコラーゲン(CII)抗体やCIIへのT細胞増殖反応を調べたところ、これらは損なわれていなかった。これを反映して、治療を中断すると関節炎は急速に悪化した。化合物Fは、リンパ球欠損マウスで誘導される関節炎であるK/BxN血清移入関節炎も抑制した。さらに我々は、新たにCDK4/6選択的阻害薬、化合物Aも合成し、その効果も確認した。化合物Aも化合物F同様に、in vitroにおいてG1相で滑膜線維芽細胞増殖を抑制した。CIAモデルマウスに投与したところ、滑膜での網膜芽細胞腫タンパクのCDK4/6特異的リン酸化の減少が認められ、in vitroでもCDK4/6抑制効果が確認された。さらに、予防的にも治療的にも関節炎も抑制され、リンパ球反応も維持されていた。以上の結果から、化合物Fは、従来とは異なったメカニズムで関節炎治療効果を発揮するものと考えられ、おそらく、CDK4/6抑制作用を通じた作用と考えられる。
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