GATA1の変異による白血病発症の仕組みを分子レベルで明らかにするために、本年度は以下の研究を進めた。 1. 変異GATA1と正常GATA1の転写制御の差異を明らかにするために、以下の実験を行なった。正常GATA1とエストロゲンレセプター(ER)のキメラ蛋白発現ベクター(レトロウイルスベクター)を作成し、変異GATA1のみが発現しているSCF依存性DS-AMKL細胞株KPAM1に遺伝子導入し、亜株を樹立した。タモキシフェンで正常GATA1を活性化し、細胞増殖と赤血球・巨核球分化について詳細に観察した。その結果、意外なことに変異GATA1も正常GATA1と同様に過剰発現すると細胞増殖を抑制するが、巨核球分化の促進は認められなかった。 2. 変異GATA-1によるKITの発現制御:我々は、real time PCRを用いて、13例のTMD、5例のDS一AMKL、17例のAMLおよび5例のALL臨床検体でのKITの発現を検討した。その結果、TMDでKITが均一に高発現していることを見出した。また、KITのリガンドであるSCF存在下に液体培養で解析したところ、5例のTMD細胞全てがSCFに反応して著しく増殖した。チロシンキナーゼ阻害剤imatinibでKITの活性を抑制すると、TMDの増殖が完全に抑制された。次に、KITの下流のシグナル伝達系を明らかにするために、SCF依存性DS一AMKL細胞を用いて解析を加えた。SCFを培養液から除くとアポトーシスが誘導された。SCF添加により、RAS/MAPKとPI3K/AKTシグナル伝達系が活性化し、アポトーシスに促進的に働くBIMの抑制とアポトーシスを抑制するMCL1(両者ともBCL2ファミリー・メンバー)の誘導が引き起こされた。以上の結果より、SCF/KITシグナル伝達系はTMDやDS-AMKL細胞の生存に重要な働きをしていることが示唆された。
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