研究概要 |
ヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)はヘムを一酸化炭素(CO)とビリルビンとフェリチン(Feより誘導される)に代謝することにより、これらの代謝産物を介して抗アポトーシス、抗細胞増殖を含む、全身性抗炎症作用を担うと示唆されていたが、この抗炎症作用は、われわれが世界で初めて発見した「ヒトHO-1欠損症例」(1999)の解析によって、認識が新たにされた。患児は2歳頃からの全身性慢性炎症が憎悪し,結局6歳で死亡した。本症例のこれまでの病態解析から,本酵素は特に血液単球,腎尿細管,血管内皮の機能発現と維持などの多様な生理学的意義を有することが示唆され、患児では本酵素の欠損によって慢性炎症に対する防御機構が破綻したものと考えられた。本研究では、これらを背景として、HO-1の防御因子としての役割を解明することを目的としている。平成18年度の研究成果を示す。 (1)炎症やその防御機構には単球が大きく係わっているが、その分画をみると、CD16high/CCR2negative細胞亜群にHO-1を強く発現していることが認められた。この細胞亜群は川崎病やインフルエンザなどで増加しており、HO-1を強く発現するとともに、IL-6やTNF-alphaを産生して、炎症に対する防御機構の一端を担っているものと考えられた。 (2)単球等細胞表面にはヘモグロビンHb/ハプトグロビンHpコンプレックスを補足するCD163分子が存在し、Hb/Hp/CD163結合がHO-1を誘導する。ステロイドを添加するとCD163の発現が有意に上昇し、HO-1発現も増強されることがわかった。 (3)HO-1が欠損すると、腎臓が非常に強く障害されることがわかっている。17年度に引き続いて各種腎疾患生検材料を用いてin situ hybridization法でHO-1mRNAを、さらに免疫染色法でHO-1蛋白発現を検討した。結果はいずれも近位尿細管に比して遠位尿細管で有意にHO-1発現が強いことが確認された。それは蛋白尿の程度と相関していた。尿細管には常に強いストレスがかかっており、HO-1はその防御に深く係わっていると思われた。
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