平成18年度の研究実績は以下の通りである。 1.母乳の生物学的特性を明らかにする研究の一環として、ヒト母乳(乳清)中の3つの重要な成長因子-VEGF、HGF、EGF濃度をEIAにて計測し、他の母親、健常成人の血清中濃度と比較した。母乳中の各成長因子濃度は、他の母親、健常成人の血清中濃度のそれぞれ約200、約7、約150倍であった。一方、これらの成長因子が羊水中でも血清中濃度以上で存在することが報告されている。あたかも羊水から母乳へと"continuum"を形成しながら、複数の成長因子が胎児・新生児の胃腸管・気道に供与されているようである。成長因子がこれらの器官も含めて、胎児・新生児の多くの器官・臓器の成長・成熟・維持に必須であると考えられた。 2.胎児・新生児期から成人・老年期のtotal life-spanでの循環制御におけるL-arginine/NOS/NO系とPRMT/ADMA/DDAH系のバランスの重要性を検討した。すなわち、ヒト血清を試料にしてNOx^-(NO産生の指標)、ADMA(内因性NOS阻害因子)、MG(加齢の指標)の経年的変化を調べた。NOx^-は小児期まで増加傾向、ADMAは小児期まで低下傾向、MGは成人期まで増加傾向を示した。胎児・新生児では児が未熟であるほどADMA撚は高値、MGは低値を示した。未熟な血管系の「機能的」な緊張維持にADMAが、成熟した血管系の「構造的」な緊張維持にMGなどによる構造蛋白修飾が重要であると思われた。「血管内皮機能不全症候群」とNO機能不全は緊密に関連する。DDAHを制御することによりADMAひいてはNOを制御することが可能である。今後、PRMT/ADMA/DDAHの制御は、胎児・新生児期から成人・老年期にかけての循環作動薬の開発のtargetになると考えられた。 3.世界ではじめて、酸化ストレス・ニトロ化ストレスの生体マーカー -8-OHdG、acrolein-1ysine、NOx^-、pentosidineの尿中濃度の年齢・性別の正常値を明らかにした。続いて、これらのマーカーを用いて、酸化ストレスの増加が早産児の呼吸窮迫症候群・網膜症などの小児炎症性疾患の病態生理に深く関連することを示した。
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