研究課題
ArylsulfataseA(ASA)の欠損症である異染性白質ジストロフィー(MLD)をモデルとして、遺伝性脳神経変性疾患に対する新しい非侵襲的遺伝子治療法の開発を目的としている。リソゾーム酵素欠損症では、一般的に酵素補充療法の有効性が期待できるが神経変性を伴う疾患に対しては血液脳関門(BBB)が障害となり、有効な治療戦略が立てられていない。ウイルスベクターを脳内に注射する侵襲的遺伝子治療は、ヒトへの治療法としては技術的にも倫理的にも問題がある。本研究では、BBBを構成する血管内皮細胞でリソゾーム酵素のレセプターであるマンノース-6-リン酸受容体(M6PR)を強制発現させ、リソゾーム酵素を血中から神経組織に非侵襲的に輸送させる方法(Transcytosis)の可能性を検討している。肝臓や筋肉での正常リソゾーム酵素の発現と組み合わせることにより、脳神経組織に対する長期の酵素補充療法が実現できると期待している。ヒト胎盤RNAライブラリーから7.6kbのM6PR遺伝子のPCRクローニングに成功した。M6PRは15回繰り返し構造をもつ膜貫通型の巨大分子であり、insulin-like growth factor II receptor(IGFIIR)機能を持つ多機能蛋白質である。IGFIIR活性を欠損し、ウイルスベクターに組み込むための変異M6PR遺伝子の構築を試みた。その結果、4.8kbのミニジーンがfull lengthのM6PRと同様に膜表面に発現しASAを細胞内に取り込んでリソゾームに移送させる活性をもつことを確認した。このミニジーンを組み込んだレンチウイルスベクターを作製しMLDも出るマウスを使った動物実験を計画している。更に、酵素補充療法を行うためにCHO細胞を使ったASAの大量発現系を構築した。具体的な研究成果については特許出願との関係から見合わせる。
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