研究概要 |
本年度は胎児の学習能の評価として、振動や各種の音刺激を用いた刺激-応答記録システムの開発のため、ヒト胎児に振動や各種の音を用いた刺激を行い、これに対する胎児心拍数、胎動の変化を記録可能なシステムの開発および刺激条件の設定を行った。 われわれは先行研究により、妊娠32週以降の胎児に馴化が認められること、さらに、延髄〜橋まで発達している胎児に比べ、橋より上位の中枢が機能を開始している胎児では反応の減弱が早期に生じておりより早く馴化していること、すなわち胎児中枢神経系機能の発達レベルが異なる症例では馴化の形成様式が異なっていることを明らかにしていた。この刺激方法では妊娠32週以前の胎児の反応のばらつきが大きいこと、また反応の指標として胎動を用いたため定量的な評価が困難であることが問題点として抽出された。本研究ではこの過去の研究の成果を根拠に、この問題点を解決し、安定した刺激方法を用いた胎児上位中枢神経系機能評価方法を開発することを目的として、定位反応を用いた馴化の評価方法の試行を行った。母体より同意をえた、母児に合併症を有さない妊娠36週〜38週の胎児3例において、それぞれ無眼球運動期であることを確認の上、母体腹壁より500Hz,1sec,90dBの純音刺激を加え胎児心拍数陣痛図を用いて、胎動ならびに心拍数変化を記録した。その結果、正常胎児3例のうち1例では刺激に引き続き心拍数の有意な低下が認められた。潜時は2.2-3.8秒、振幅は12-8bpmであった。刺激によって胎動は誘発されなかった。つまり妊娠36週以降、音刺激に反応し心拍数変動を示す胎児が存在することがわかった。本刺激は定位反応を誘発するため、認知の要素をとりいれたより高次の学習能についての解析が可能となると考えられる。次年度はより多くの症例において反応を得ることができる至適刺激条件を検討するとともに、リファレンスとしての他の行動指標による発達評価との連関の有無を解析する。
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