研究概要 |
ダリエー病は常染色体優性遺伝の角化異常症で、原因遺伝子は染色体12q24.1領域のATP2A2で本体は小胞体カルシウムポンプ(SERCA2b)である。多くのダリエー病患者の解析により、われわれの発見したものも含め現在までに多くの遺伝子変異が同定されている。われわれは、報告のあるSERCA2b点突然変異51種類のmutantを全て作成し、Cos1細胞に導入する系を用いてカルシウムポンプ機能を解析し、その異常がいくつかの群に分けられることをすでに見出している(Sato, Miyauchi, Iizuka et al.:J Biol Chem 2004; Miyauchi, Daiho, Iizuka, et al.:J Biol Chem 2006)。この中でも、L321F変異、I274V変異、M719I変異はわれわれが日本人家系から見出したもので、各々、単純なhaploinsufficiencyではなく、カルシウムポンプにおけるkinetics上の異常を示す。本年度の研究においてはL321F変異導入transgenic mouse の解析を行った。本変異は、endplasmic reticulum(ER)のカルシウムポンプ機能そのものには異常はないが、ポンプに対するfeedback inhibitionがかからないため、ER内のカルシウム濃度が異常に高く設定されてしまうユニークな変異で、このためER内腔の機能のみならず、細胞質内カルシウム濃度にも結果的に異常が引き起こされ種々の変動が引き起こされるものである。この変異は、原理的にカルシウムポンプの異常としてはassay系で検出されないため、遺伝子変異があるにもかかわらず、ポンプ機能が一見保持されているように見えてしまい、さらに何らかの負荷をかけたときに初めて異常が顕在化してくるという特性が予想され、ダリエー病の病態を考える上で、単なるhaploinsufficiencyとは異なる機構を説明するプロトタイプと思われる。現時点でgenomicに導入したL321F transgenic mouseにおいてはっきりした表現形の以上は、温度負荷、運動負荷をかけたレベルでは確認されていないが、さらに観察を続ける予定である。なお本transgenic mouse由来の細胞を用いたポンプの機能解析では、予想通り、feedback inhibitionの異常を確認している。
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