本研究ではin vitroでケラチノサイトがシート状で遠心性に拡大増殖する様式に注目し、張力の関与を想定し、張力が釣り合うように増殖することを確認することができた。しかし物理的に拡大する余地があるにもかかわらず、ケラチノサイトは重層化すると遊走と増殖に抑制がかかることを見いだした。抑制物質の存在が示唆されたので、その同定が今後の課題となる。また毛包形成に重要な役割を果たしている毛乳頭細胞にも注目して、新しい培養法と新しい細胞表面マーカーを見つけた。すなわち塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF2)を培地に添加すると毛乳頭細胞が長期に培養できるようになった。さらに幹細胞マーカーの一つであるCD133が毛乳頭細胞の表面マーカーになりうることを証明した。興味深い点はCD133の発現は毛が成長期の時のみにみられることである。ケラチノサイトと毛乳頭細胞による毛包誘導実験をin vivoで行い、培養により低下してしまう毛乳頭細胞の毛包誘導能を維持させる方法を検討した。毛乳頭細胞を強制的に凝集させてsphereを形成させるとケラチノサイトと相互作用をしやすくなり、毛包誘導能が維持できた。毛包が再構成されるときに脂腺も同時に形成されることを確認した。また移植された毛乳頭細胞はin vivoにおいて毛乳頭にのみ存在するのではなく、dermal sheath cellもなることを確認した。皮膚の幹細胞は多能性をもつのみならず、創傷時や毛周期に伴って、表皮と毛乳頭細胞が相互作用しながら、ダイナミックに変化をしている可能性が示唆された。
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