研究概要 |
イノシトールリン酸の代謝およびその調節が、精神疾患(統合失調症や双極性障害)の病態や病因にどのように関与し得るのかを解明するため、下記のような各種IMPase(inositol monophosphatase)遺伝子改変マウスを樹立中である。 1.IMPA2トランスジェニックマウス:終脳特異的にIMPA2を過剰発現するマウスを樹立した。オープンフィールドテスト,尾懸垂テスト,強制水泳テスト,プレパルス抑制テスト、明暗ボックステスト等を終えたが、non-Tg mouseと大きな差は見られていない。非常に面白いことに、メスTgマウスにおいて、母性行動の異常が見られる可能性が判明し、現在さらに検討を行っている。 2.IMPA2ノックアウトマウス:現在、キメラマウスの産生に成功したところである。ノックアウト個体が準備でき次第、各種行動試験を行う予定である。行動レベルで明らかな異常が現れた場合、野生型マウスとマイクロアレイ実験、メタボローム実験を組み合わせてその異常発症メカニズムを追求する基礎とする。とくにメタボローム実験は、IMPA2の特異的基質(おそらくイノシトールリン酸関連物質)の発見が可能になるであろう。 3.ENU(ethylnitrosourea) mutagenesisによるIMPA1,IMPA2変異マウス(gene-driven mutagenesis):現在、精力的に変異導入凍結精子バンクをスクリーニング中であるが、既にIMPA1に関して三種のミスセンス変異体を発見した。それぞれcDNA上で変異を再現し、組み替え変異体タンパク質のIMPase活性を検討したところ、そのうち一種は完全に酵素活性を失うものであり、また一種はIMPase活性が野生型と比較して数倍に亢進しているものらしいことが判明した。今後、まず異常行動の有無を評価する。
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