研究課題
本年度は、主として動脈瘤の病態に即し、より導入効率の高いベクターの作成に主眼をおいた。慢性的に経過し高齢者が多い動脈瘤には免疫原性が低く,反復投与が可能で遺伝子導入効率が高いベクターでなくてはならない。我々は、ナノ・ミセル構造体がDNAを取り込んで複合体を形成し免疫反応を惹起せず細胞へ取り込まれやすいことを示し、ナノ・ミセル構造体の非ウィルスベクターとしての可能性を示してきた。本年度はまず、ナノ・ミセル構造体にベクターとして十分な遺伝子導入効率を持たせるため、ナノ・ミセル構造体に付加するペプチドの検討とミセルの細胞質内への移動性能を改善した高分子ナノ・ミセル(PEG-DET)をin vitro、in vivoで遺伝子導入効率を検討した。(1)細胞膜表面のインテグリンを認識するRGDペプチドをナノ・ミセル表面に結合させた構造体を作成した。しかし、RGD付ミセルは、リガンド無しミセルに比べin vitro、in vivo(頚動脈擦過傷モデル)ともに有意に遺伝子導入効率を上昇させなかった。さらにartery wall binding peptideを結合させた構造体で試したがin vitroでは良好な結果を得られたがin vivoでは無効であった。一方、我々は、血管壁の構成成分となり強度を規定しているコラーゲンの組成および立体構成が、マウスの動脈疾患モデルにおいてかなり変化していることを見出した。今後、動脈瘤壁に選択的に強発現しているペプチドを限定し、ナノ・ミセル構造体に付加することで遺伝子導入効率が上がるか検討する予定である。(2)ミセルから遊離したDNAがエンドソームで加水分解されずに核内へ移行する過程と内包DNAの細胞内での効率的なリリースの過程を改善した高分子ナノ・ミセル(PEG-DET)を用いると、in vitroのみならずウサギ頚動脈擦過傷モデルを用いたin vivo実験において遺伝子導入効率が上昇した。今後は、動脈瘤モデルでも遺伝子導入効率が上昇するか検討する予定である。
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