横中隔septum transversum由来のproepicardial organ(PEO)組織から冠動脈が形成されることは明らかになったが、冠血管の発生について分子レベルにおけるメカニズムに関する研究は始まったばかりであり未だに冠動脈の発生に関しては未知の部分が多い。冠動脈の血管新生あるいは伸展は他の血管系と異なるのか、同じシグナル分子が働くのか、PEO上皮細胞が心臓に遊走を促す因子は何か、心外膜から産生されるシグナル分子は何か、それらのシグナルは他の部位での上皮-間葉転換システムとの違い、間葉細胞の制御方法、など未だに解明されていない項目が存在する。本研究を始めるにあたって総説「冠動脈の発生と発達に関する最近の知見」(冠疾患学会雑誌、2004年)に述べたが、解決せねばならないことが多数あることが明らかになった。本研究では冠動脈の発生・発達を理解し、虚血性心筋への新生血管誘導法を検討することを目的とした。本研究を行うことにより、臨床の現場で問題になっている外科的血行再建術を用いても再建できない細小血管の領域を治療する糸口がつかめると考えた。現在、冠動脈の発生・発達では、心臓全体に分布する細かい網目状の毛細管が収束して大動脈に接続する課程を経て近位冠動脈を形成するという説が支持されている。内皮だけの冠動脈が大動脈弁上壁の平滑筋層に接続する部分には細胞死がみられる。すなわち、近位冠動脈は大動脈から出てくる(outgrowth)ではなく、周囲の網目状の毛細管が収束して大動脈に接続して(ingrowth)形成される。すなわち冠動脈は基本的には血管新生vasculogenesisによって形成されることが知られている。
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