研究概要 |
京都大学再生医科学研究所中辻研究室で樹立されたヒトES細胞(KhES-1,-2,-3)を用いてPA6細胞との共培養(SDIA法)による神経分化誘導を行ったところ、いずれの細胞株からもドーパミン産生神経が誘導された。さらに、臨床応用を視野に入れて、マウス胎仔髄膜細胞による分化誘導を試みたところSDIA法と同程度のドーパミン産生神経への分化が確認された(Hayashi, et. al., 2008)。さらに、フィーダーを用いない神経分化誘導の試みとして、ヒトES細胞をマトリゲル上で、PA6の馴らし培地にて培養したところ、この方法でもドーパミン産生神経が誘導された。具体的には、マトリゲル上でヒトES細胞を神経幹細胞まで誘導し、その後FGF-2を加えて1〜3週間浮遊培養し、その後2〜3週間接着培養するとほぼ100%の細胞がニューロンとなり、その約半数がドーパミン産生神経となった。このsphere様の細胞塊をパーキンソン病モデルカニクイザルの脳に移植したところ、浮遊培養1週間の細胞では脳内で腫瘍様の増殖がみられた。細胞塊の内容を調べたところ、1週間培養の場合は未分化ES細胞がまだ混入していることが分かった(現在投稿準備中)。これらの結果は、ヒトES細胞からもドーパミン産生神経が誘導できることを示しかつ腫瘍形成の原因を示唆するものであり、今後の臨床応用に向けて重要な知見である。また笹井らと共同研究で、ROCK阻害薬がヒトES細胞の低濃度培養時の細胞死を抑制することを明らかにした(Watanabe, et. al., 2007)。神経誘導や細胞選別などでヒトES細胞の低濃度培養が必要になるが、この方法はその培養効率を格段に上げることで重要な技術となる。
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