研究概要 |
1.脳動脈瘤モデルの確立と動脈瘤形成に至るホルモンの関与 脳動脈瘤は1)比較的閉経期の女性に多く発症すること、2)高血圧がリスクファクターでありhemodynamic stressのかかる部位に発生し易いこと、3)estrogenがcollagenの維持に重要な役割を担っていることから、estrogen欠乏状態でcollagenの分解が亢進し血管が脆弱化している状況下で血圧が高ければhemodynamic stressを受け易い部位では脳動脈瘤が発生する可能性が高いと考え、ratを用いてestrogenの脳動脈瘤形成メカニズムへの関与について検討した。嚢状脳動脈瘤(stage III)は雌性高血圧ラット(卵巣摘出)で9/15(60%)に発生し、雄性高血圧ラット:3/15(20%)、雌性高血圧ラット(卵巣非摘出):3/15(20%)および無処置雌性ラット:0/15(0%)と比較して発生頻度が高く(p<0.05)、いずれも主に前大脳動脈-嗅動脈分岐部(7/9,78%)に認められた。また脳動脈瘤形成の初期変化と考えられる血管内皮の不規則な走行(satge I)および血管壁隆起(stage II)も卵巣摘出ラットで高頻度に観察された。この研究では卵巣雌性摘出ラットを用いて世界で初めて脳動脈瘤形成に至る血管内皮の初期の形態学的変化からestrogen欠乏が動脈瘤形成に関与することを示唆した(J Neurosurg,2005;103:1046-51)。さらにestrogen投与によるホルモン補充療法を行い、血管内皮の初期変化から嚢状動脈瘤形成に至るまでの形態学的変化を観察したところ、発生頻度は未治療群:13/15(86.7%)に対してホルモン補充療法群:5/15(33.3%)と有意に低下した(p<0.05)。以上の結果から動脈瘤形成に至る病因として血行動態や高血圧に加えてhormone特にestrogenが強く関与していることを実証した(J Neurosurg.2005;103:1052-7)。 2.脳動脈瘤形成に至る血管内皮細胞傷害と炎症性変化 血管内皮の形態変化と対応させて免疫組織学的変化を評価した結果、脳動脈瘤形成初期では血管内皮細胞のeNOS発現の減少がみられ、ついで病巣へのmacrophageの浸潤や中膜からの平滑筋遊走などの炎症性変化へと進行し、増加したmacrophageおよびMMP-9陽性細胞の強い発現により炎症性変化がさらに拡大し、血管壁の蛋白分解などによる血管壁の緋薄化が進行することで、ドーム状弛緩から脳動脈瘤形成に至ることを明らかにした(J Neurosurg.2007,in press)。今後脳動脈瘤の予防および治療法を確立するために動脈瘤の形成初期から増大に至る各stageでの分子メカニズムをさらに探求していく予定である。
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