我々はこれまでarray-CGH(Geno Sensor)にて膠芽腫のゲノム異常解析を進めてきたが、膠芽腫で認められたゲノム異常パターンが同一患者のリンパ球ゲノムにも観察された症例を経験した。この現象は骨髄幹細胞ゲノムにある特定の変異を来たしたものが末梢血から脳組織に運ばれて膠芽腫を発生させ、同時にリンパ球への分化を起こしたと考えることも出来る。このことから膠芽腫の中には骨髄幹細胞に生じた異常幹細胞に由来するものが存在するのではないかとの着想を得た。今回の研究においては、膠芽腫のゲノム異常解析をGeno SensorおよびProp Array CGHにより行った。Prop Array CGHは日本人胎児由来のゲノムからBAC cloneを作製して、7500の染色体マーカーとしてスライドグラス上に貼り付けたものであり、現時点で最高のゲノム解析の解像度が得られる。Geno Sensorと同様の方法でゲノムDNAを標識し、Prop Array CGH(Prop Gene Inc.)にハイブリダイズさせ、専用スキャナーで蛍光強度を測定する。このデータから染色体ごとのイデオグラムを作製した。特に同一患者の膠芽腫組織とリンパ球のゲノムをより詳細に比較し、両者のパターンの類似性をwavelet解析法で検証してきた。これらのゲノム構造変化が癌組織にどのような頑健性(robustness)を与えるかを、ゲノム重複や遺伝子増幅によるredundancyおよびdiversityの観点から推測し、構造変化をきたした染色体部位が癌細胞全体に与える影響をモチーフ構造・モジュラー構造などの解析を行ってきている。更に最近では、より脳腫瘍の臨床に密接した診断装置として約500の染色体マーカーをスライドグラス上に貼り付けたArray CGHにより、簡便かつ安価で解析できる方法を考案中である。
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