・ラット膝関節に作成した軟骨全層欠損に対し、chondroprogenitor cellであるN1511細胞をBMP/insulin下で分化誘導し、軟骨細胞形質を発現するようになった時点で、高密度1x10^7cell/mlに調整して関節内移注した。その結果、分化した投与細胞は軟骨欠損部および軟骨変性部に接着または埋入し、分化誘導をかけない未分化間葉系細胞移注に比べて良好な軟骨修復を示した。経時的に組織学的に検討すると、分化軟骨細胞移注により欠損部のfillingと硝子修復が有意に改善していた。このことから、本研究計画におけるscaffold-freeでの高密度細胞投与実験において、一定の段階の分化形質を有する細胞移注が最も優れており、今後の関節内細胞supplementationとしての使用に適した移注細胞の分化レベルが明らかとなった。 ・関節内への細胞移注により、関節軟骨欠損部などの組織損傷部に加えて、移注細胞の多くは滑膜にも取り込まれる。そこでこの滑膜もターゲットとした細胞制御手段を同時に開発すべく、細胞周期制御とアポトーシス誘導作用を有するピストン脱アセチル化酵素阻害剤(HDACI)を用い、さらにその効果増強をはかるために、低強度超音波(US)を併用することにより、滑膜または軟骨をターゲットとした局所制御が可能かどうかを検討した。まず滑膜細胞に対して、低強度のUS照射によりHDACI取り込みは短時間で増大し、細胞活性の著しい低下を誘導した。さらにHDACIによる細胞周期制御、すなわちS期細胞の減少とG0-G1/G2-M期細胞の増加、および細胞周期関連蛋白発現の変化は、低濃度のHDACI下においてもUSの併用により顕著に増大した。またHDACIとUSの併用により滑膜細胞に対するアポトーシス誘導率の増加を認めた。これらの結果は、HDACIとUSの併用により、滑膜の局所制御が可能であることを示している。続けて関節軟骨細胞に対する効果を検討中である。
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