研究概要 |
本年度,日本白色家兎の膝関節にマイクロ波(microwave : MW)照射器を用いて,周波数2.45GHz,照射電力0-80W,照射時間20分の条件で温熱刺激を加えた.MW照射の8-72時間後に膝関節軟骨からtotal RNAおよびタンパクを抽出した.対照としてMWを照射していない膝関節を用いた.heat shock protein(HSP)70の発現をReal Time PCR法およびウエスタンブロッティング法で確認した.プロテオグリカンコアプロテイン(proteoglycan core protein : PG)およびII型コラーゲン(type II collagen : Col II)のmRNAの発現をReal Time PCR法で検討し,軟骨基質代謝を評価した. MW照射8時間後の発現は40W以上の温熱刺激で亢進した.PGおよびCol IIのmRNAの発現はともに20W以上温熱刺激で亢進し40Wで最大であった.40WのMW照射時では,HSP70,PGおよびCol IIのmRNAの発現はそれぞれ8時間後,48時間後,72時間後に最大値を示した.HSP70タンパクの発現は24時間後で最も亢進していた.また,HSP70阻害剤であるquercetinを家兎膝関節内へ投与した場合,関節軟骨において温熱刺激によるHSP70の発現が抑制されるとともに,PG mRNAの発現亢進が抑制された.一方,温熱誘導性のCol II mRNAの発現は明らかな変化を認めなかった. 本研究では,適度な温熱刺激が軟骨基質代謝を亢進させることが明らかになった.この温熱刺激による基質代謝亢進作用の一部にHSP70の発現が関与している可能性が示された.これらの結果は,温熱刺激がHSP70の発現を介して,関節軟骨に対するさまざまなストレスから軟骨細胞を保護するとともに,損傷を受けた関節軟骨の再生を促す可能性を示しており,変形性関節症の治療を考える上で重要である.
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