研究概要 |
1)自家組織由来神経幹細胞の培養の確立 損傷した中枢神経組織に対する神経幹細胞や胚性幹細胞を用いた細胞移植治療の有用性が報告されているが、倫理的問題のため臨床応用には至っていない。今回われわれは移植治療確立の前段階として、神経堤由来の細胞をGFPによって標識したtransgenic mouseを用いて後根神経節・皮膚・骨髄から神経堤由来の細胞群を回収し、in vitroにおける詳細な解析を行った。Cell Sorterを使用してGFP陽性細胞を濃縮し特殊条件下で培養したところ、神経堤由来の未分化細胞塊が形成され神経堤幹細胞の活性を持つものが存在していることが分かった。さらに、幹細胞性の特徴である様々な種類の細胞に分化する能力や分裂して同じ細胞を生み出す自己複製能および領域特異的な遺伝子群の発現は組織ごとに違いが観察された。今回の解析より、神経堤幹細胞は胚葉を超えて各組織に成体になってからも潜伏していることが明らかとなり、従来の報告では胚葉転換によると考えられていた骨髄などの組織幹細胞が、実は神経堤に由来していることが示唆された。 2)神経幹細胞移植による運動機能回復メカニズムの検討 損傷脊髄に対する神経幹細胞移植による機能回復メカニズムを明らかにするために移植後生着した細胞のみに特異的細胞死を誘導する方法を確立した。先ず、Rb signal下流の癌遺伝子E2F1と,エストロゲン受容体リガンド結合部位(以下ER)との融合蛋白質ER-E2F1を作製し,Lenti-virusによりヒト神経幹細胞に導入した.In vitroで導入細胞にERのリガンドであり血液脳関門を通過する4-hydroxy tamoxifen(以下OHT)による選択的細胞死誘導することができた.さらに、損傷脊髄に移植・生着した神経幹細胞を同システムを用いて選択的細胞死を誘導することに成功し、移植後にみられた機能回復が消失することが明らかとなった。以上の結果より、神経幹細胞移植によってもたらされる機能回復は液性因子によるもののみではなく、移植細胞が神経回路網に組み込まれている可能性が示唆された。
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