本年度の報告事項として、ノルエピネフリン、アンギオテンシンII、バソプレシンのヒト血管平滑筋に及ぼす影響を検討した。具体的には、ショック患者において血管収縮性ホルモンの変化を測定し、またin vitroの実験として各種ホルモンのヒト血管(胃大網動脈)に及ぼす影響を検討した。 結果として、以下の事項が認められた。 (1)ヒト胃大網動脈において、アンギオテンシンIIおよびバソプレシンは濃度依存性の血管収縮反応を示した。しかし、同一濃度を12回繰り返し投与した場合、バソプレシン、ノルエピネフリンでは安定した収縮力が得られるのに対し、アンギオテンシンIIは2回目以降の収縮が段階的にかつ著明に減弱しヒト胃大網動脈においてtachyphylaxis反応を生じることが判明した。 (2)tachyphylaxis反応を生じたアンギオテンシンII収縮にバソプレシンを投与すると収縮力が著明に増強し、各々の収縮を足したものより大きくなり相乗的に収縮力が増強した。また、その増強した収縮は、繰り返しても減衰しないことからtachyphylaxis反応が消失したと考えられた。ノルエピネフリンにアンギオテンシンIIを混合した場合には、同様に収縮力の相乗的効果が認められ、以後収縮力の減衰が認められないことからTachyphylaxis反応が抑制されたと考えられた。 (3)出血性ショック患者から得られたアンギオテンシンIIおよびバソプレシンの最高血中濃度は、2.2ng/mL、550pg/mLであった。一方、健康成人から得られたアンギオテンシンIIおよびバソプレシンの最高血中濃度は、16.7pg/mL、3.5pg/mLであった。 (4)結論として、ヒト血管において生体濃度のアシギオテンシンII、バソプレシンは強い血管収縮反応を呈した。しかし、アンギオテンシンIIはtachyphylaxis反応を生じ収縮力の減弱を生じるのに対し、他のホルモンとの相互作用により収縮力が改善した。血管収縮性ホルモンは、生体内で相補関係を持ち、血管反応性を維持している可能性が示唆された。
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