研究概要 |
「緒言」インフルエンザ感染後における脳細胞環境系の機能的変動を神経科学的および組織形態学的に検索をして、インフルエンザ脳症の発症機序解明を試みた。「方法」1)ヒトから分離されたA/NWS/33(H1N1)株(NWS株)を使用した。2)NWS株をBLB/Cマウスの鼻腔より接種し、24時間、3日目、6日目で脳を摘出した。real time RT-PCRを用いて、摘出した脳部位でのnNOS, iNOS, IL-6、TNF-αを測定した。さらに、グリア細胞の変化やiNOSの産生部位,アポトーシスの検出を行った。各組織の一酸化窒素の代謝物(NO2およびNO3)をHPLC-UV法で定量測定を行った。3)8日令SDラットの雌雄別なく小脳を摘出した。定法に従い初代培養細胞を作成し、神経細胞とグリア細胞が混在して使用した。NWS株を適用後、24時間、3日目、6日目で上清ならびに細胞のNOx測定を行った。「結果」1)接種24時間後に脳内でウィルスの存在を確認した。接種6日後、全ての接種動物で明らかな体重減少が認められた。ウイルス接種マウスはmRNAレベルで脳内IL-6, TNF-α,NOxは上昇していた。特に摂取後24時間でIL-6とTNF-αは脳の各部位で上昇した。NOxは嗅球及び海馬で増量が認められた。病理組織では、特に皮質および海馬領域でアポトーシスの発現が感染後24時間以内で著明に認められた。さらに、海馬領域で血管拡張、血管周囲でのアストロサイトの活性化が示唆され、iNOSは海馬領域の血管内皮細胞に染まり,皮質などの血管内皮の染色はほとんど認められなかった。2)培養細胞でNOx量の有意な増量が感染後経時的に認められ、3日目で最大値を得た。「考察」インフルエンザウイルス感染によって、海馬内のアストロサイトの活性化や血管周囲や内皮でのiNOSの増量と血管拡張が感染6日目に認められた。一方、小脳顆粒細胞においても感染によってグリア細胞の活性化とNOxの増量が認められた。すなわち、インフルエンザ脳症の発症には、脳細胞環境系の機能異常がtriggerとなることが示唆された。
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