研究概要 |
ヌードマウスにシスプラチン(CDDP)耐性株であるCaov-3細胞を接種し、その後CDDPとgefitinib(イレッサ)を単独または併用投与する実験において、2剤の併用投与により、1)腹水量、腹腔内腫瘍重量が各薬剤の単独投与に比べて減少し、2)CDDPにより誘導される腫瘍細胞におけるEGFR,ERK,Aktのリン酸化がイレッサの併用により抑制され、3)単独投与に比較し、腫瘍細胞のアポトーシスを増加させたことについてはすでに明らかにしてきた。今年度は当初の計画に加えて、イレッサがCDDPによるDNA損傷からの修復を遅らせる効果があるという報告(Clin Cancer Res 2004)をもとに、この点についてもin vitroにおいて実験を進め、以下の結果を得た。DNAの修復酵素であるDNA-PKの発現を免疫蛍光染色法で検討したところ、CDDP耐性の卵巣癌細胞では、CDDPによりDNA-PKの発現が誘導され、イレッサを併用することにより、その効果が抑制された。イレッサはCDDPが誘導するDNA損傷からの修復を遅延することでもCDDPの抗腫瘍効果を増強することが示唆された。さらに今年度は当初の計画通り、臨床検体を用いた検討を行った。学内の倫理委員会の承認を得た後、卵巣癌患者に十分なinformed consentをとって、(1)抗癌剤投与による腫瘍細胞におけるERK,Aktの発現変化、(2)抗癌剤投与前後のアポトーシスを定量化して、抗癌剤の効果を検討した。抗癌剤投与により、(1)ERKは有意にリン酸化が促進されたが、Aktの活性化には一定の傾向を認めなかった。(2)アポトーシスのマーカーであるカスパーゼ3およびPARPの発現が有意に増加した。これより、臨床検体における抗癌剤の効果には、ERK経路の活性化が関与していることが示唆された。今後、その詳細な機序を検討していく予定である。
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