我々はテロメレース触媒サブユニットであるhTERT (Human telomerase reverse transcriptase)遺伝子プロモーターを世界で初めてクローニングし、このプロモーターが癌細胞特異的に活性化されることを報告してきた。hTERT遺伝子プロモーターが高度の癌特異性を有することから、アデノウイルスの複製に必要な自己蛋白E1Aの遺伝子の上流にこのプロモーターを組み込みめば、E1Aがテロメレース陽性細胞でのみ発現することになり、ウイルスの複製が可能になる。したがってこのような組み替えウイルスは、テロメレース陽性の癌細胞においてのみ複製増殖可能な増殖型ウイルス(TRAD : telomerase-specific replication-competent adenovirus)であり、これを用いて婦人科がん、なかでも難治性の卵巣癌の治療への応用を目的とした。SKOV3卵巣癌細胞株によるマウス腹膜播種モデルを作製した。TRADをこのマウスの腹腔内に注入し、抗腫瘍効果を検討したところ、TRAD 10MOI投与にて播種巣の有意な現象を認めた。TRADの局在はTRAD-GFPを新たに作製しGFP蛍光にて探索したところ、腹膜面め播種巣に限局して存在していた。CDDP腹腔内投与との併用では、CDDP単剤に比し有意に生存率の向上を認めた。TRADはCDDP耐性株にも感受性株と同等のIC50値を示した。以上の結果より腹膜播種巣を有する難治性野卵巣癌に対してTRADが有効な治療戦略となり得ることが明らかになった。
|