研究概要 |
HIVの経胎盤感染をin vitroにおいて再現するため、複数の絨毛癌細胞株,不死化栄養芽細胞を用い、HIV感受性を検討し、インフルエンザウイルスと比較した。その結果、ヒト絨毛癌細胞株JEG-3はHIV感受性であったが、BeWo, JARでは複製が見られなかった。不死化初期栄養芽細胞Sw71, HTR8も感受性が低かった。次に,分化程度による感受性を検討した.未分化なBeWoはHIV非感受性であるが、Forskolinによる分化誘導を受けるとHIVにCD4非依存性に感染し複製することが判明した。分化の過程でCXCR4発現は変化せず、CD4の発現も誘導しないことが判明した.さらに、TLR agonistによる調節を検討するためTLR1-9のアゴニストを添加した. HIVの複製は、TLR-7、8からのシグナルで有意に抑制された。これに対し, trophoblastにおけるinfluenza感染は逆の結果を得た。すなわち不死化初期栄養芽細胞Sw71,HTR8、未分化なBeWoはインフルエンザ感受性であるが、BeWoはForskolinによる分化誘導を受けるとインフルエンザに抵抗性を獲得する。しかし両ウイルスはともにtrophoblastにapoptosisを誘導することが明らかになった。慢性感染症であるHIV感染と急性感染症であるインフルエンザでは胎盤関門は異なった戦略をとっている可能性がある。すなわち、急性感染症であるインフルエンザに対して胎盤は感染抵抗性のsyncytial trophoblastを組織表面に配置し、中和抗体の出現を待つ。一方、中和抗体の期待できないHIV感染症では、syncytiumへの感染を許すがcytotrophoblastへの感染は許さず、アポトーシスよってこれを排除することで胎児を感染から防御する。さらに、初期絨毛細胞に対するHIV感受性は脱落膜リンパ球が産生するケモカインが調節することを明らかにした.HIV垂直感染では,母体の栄養状態や免疫状態に加えHLAハプロタイプやHIVサブタイプにより感染効率に著しい差が生じることが知られている。そのための臨床的解析を心がけたが残念ながら(医師としては幸いなことに)研究期間中に垂直感染を来たした症例は日本では見られず,ラオスとの共同研究を進めている.
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