研究概要 |
骨髄および組織幹細胞を用いた嗅組織の再生医療への適応,ならびに臨床応用への可能性について検討するため,本年度の研究では移植骨髄幹細胞の嗅細胞への分化能の解析と嗅上皮障害時の上皮再生過程における骨髄幹細胞の関与についての解析を行った. まず,移植骨髄幹細胞の嗅細胞への分化能を解析するために,Wild TypeマウスにX線照射を行なった後に,GFPマウスの骨髄細胞を経静脈的に移植した.レシピエントマウスの嗅上皮組織内に散在するドナー由来GFP陽性細胞の一部は抗OMP (olfactory marker protein)抗体で免疫染色された.GFP陽性細胞は嗅上皮の基底細胞層から表層にかけて垂直性に連続して認められた.このことは,骨髄幹細胞が嗅細胞の前駆細胞として嗅上皮の基底細胞層に取り込まれた後に局所で嗅細胞へ分化したことを示唆している.嗅上皮組織中のGFP陽性細胞数を経時的に定量解析すると,移植後5週間までには嗅上皮内にGFP陽性細胞は認められなかったが,6週間で陽性細胞が認められた.移植後13ヶ月までの観察ではGFP陽性細胞率は経時的に増加傾向を示した.以上のことから,骨髄幹細胞は嗅細胞への分化能を有し,持続的に骨髄組織から嗅上皮へ組織幹細胞もしくは嗅細胞の前駆細胞として供給されている可能性がある. 次に,嗅上皮障害時の上皮再生過程における骨髄幹細胞の関与を解析するために,GFPマウスの骨髄細胞移植を行なった後に,1%硫酸亜鉛を点鼻して嗅上皮障害マウスを作製し,経時的に免疫組織学的観察を行った.嗅上皮障害マウスの再生嗅上皮では,対照群と比較しGFP陽性細胞の増加傾向が認められ,骨髄幹細胞の嗅上皮への移行は嗅上皮組織損傷の程度により増加すると考えられた.
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