本研究計画の目的は、癌関連網膜症の患者血清が認識する網膜特異抗原として単離されたPTBLP遺伝子を中心として神経細胞特異的RNA結合タンパク遺伝子が網膜神経細胞の発生分化過程においてどのような役割を担っているのかを解明することにある。また、これらの遺伝子に関する遺伝子改変マウス等を用いて網膜神経細胞の発生および神経回路網の構築・維持に関する詳細な分子機構を網羅的に解析する。 本年度は以下の研究を行った。 (1) PTBLPノックアウトマウス胎仔網膜の器官培養系を用いた発生分化過程の解析 E16〜18のマウス胎仔眼から網膜を摘出し、セルロース膜上に注意深く広げ21日間培養し、網膜の三層構造が形成される培養系を確立した。また、この培養網膜において各種網膜細胞特異マーカータンパクの発現を免疫染色法を用いて確認した。次に、PTBLPノックアウトマウスのヘテロ体同士を交配させ、その胎仔網膜を用いて器官培養実験を行った。同腹の野性型(+/+)およびヘテロ体(+/-)とホモ体(-/-)で網膜の分化過程を形態学的に観察した。(-/-)の網膜の厚みは他の網膜に比べ20%ほど小さくなっていた。特に、内網状層の厚みが小さく神経節細胞層の細胞数が減少していた。また、電子顕微鏡で観察したところ視細胞外節の形成が(-/-)の網膜では脆弱であった。 (2) PTBLPと相互作用するRNAおよびDNA結合タンパクの検索 酵母Two-Hybrid法を用いた検索により、PTBLPとタンパク相互作用するRNAおよびDNA結合タンパク質の検索を行い、3個のRNA結合タンパクと16個のDNA結合タンパク質を見いだした。これらのタンパクについて網膜での発現部位およびPTBLPとの相互作用部位等の詳細な検討を行っている。
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