研究概要 |
視細胞(錐体、桿体)の株化緬胞は未だ世界で報告がない。本研究では視細胞に特異的に発現する遺伝子のプロモーターとSV40 Large T抗原遺伝子を利用してマウス視細胞の癌化と,癌組織からの不死化培養細胞株の樹立を試みた。杆体特異的遺伝子GNAT1(トランスデューシン杆体αサブユニット)と錐体特異的GNAT2(同錐体αサブユニット)のプロモーターをヒトゲノムから単離し,それらの下流にSV40 Latge T抗原遺伝子,さらにその下流にIPBP(Ihterstitial retinoid binding protein)遺伝子のエンハンサー配列を連結して発現ベクターを構築した。これらをC57BL/6 Crマウス受精卵に微少注入(GNAT1,200胚;GNAT2,400胚)しトランスジェニックマウス(TgM)を作成した。TgMの眼及び他の組織における癌の発生を観察し,得られた癌組織を摘出して細胞培養を行った。その結果,GNAT1-LargeT遺伝子導入TgMは5匹得られた。それらの眼組織は有意な変化を示さなかったが,少なくとも2匹の個体で松果体由来と考えられる脳の腫瘍が認められた。GNAT2-Latge T遺伝子導入TgMは11匹得られた。これらの一部は視細胞にアポトーシス様変化が見られ,うち4匹にはやはり松果体由来と思われる腫瘍を認めた。GNAT2-Large T TgMの脳の腫瘍を摘出し,酵素処理等により細胞を分散させて培養系での増殖を試みた。細胞は,培養3か月の段階で増殖を続けており,それらの多くにはLarge T抗原タンパクの発現が見られた。GNAT1およびGNAT2は,他の視細胞発現遺伝子と同様,松果体で発現する可能性が高く,松果体での腫瘍形成は想定されることであった。培養継続中の細胞は,松果体由来であっても視細胞に類似した細胞内環境を保持している可能性は十分考えられる。本研究の成果は,第112回日本眼科学会総会(平成20年4月17〜20日)で報告した。また,第15回日本遺伝子診療学会大会(平成20年7月31日〜8月2日)でも発表予定である。
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