【目的と方法】平成18年度の目標は、正常真皮(以下ND)、肥厚性瘢痕(以下HS)およびそれぞれの培養線維芽細胞(以下in vitro ND and HS)の脂肪酸組成を明らかにし、将来の創傷治癒研究の基礎的データの蓄積をすることである。形成外科手術時に得られたND、HSおよびこれらから得られた線維芽細胞をサンプルとした。培養細胞は10%FCS含有DMEM培地で継代培養した。これらをFolch抽出法で脂肪酸成分を取り出し、細胞膜脂肪酸を解析するための薄層クロマトグラフィーに供する群と全組織内脂肪酸を解析する群に分け、それぞれについてガスクロマトグラフィーで脂肪酸の解析を行った。脂肪酸は代表的な23種類について検討した。また、scarless wound healingのモデル動物として慶應義塾大学形成外科の貴志講師より送られた胎仔マウス皮膚の脂肪酸解析も施行した。 【結果】ステアリン酸およびアラキドン酸の割合はNDよりHSにおいて有意に高かった。また、オレイン酸の割合はNDにおいて有意にHDよりも高かった。培養細胞はその由来にかかわらず10%FCSと脂肪酸組成がほぼ同じであった。胎仔マウスの脂肪酸組成解析では、胎仔皮膚に瘢痕が残る14日以降から徐々にアラキドン酸を代表とする必須脂肪酸の割合が増加していた。 【考察】個々の脂肪酸組成の意義は現在のところ不明であるものの、人とマウスのサンプルともHSはNDに比べアラキドン酸の割合が有意に高いことが明らかとなり、HSの形態形成および維持に、アラキドン酸を介するプロスタグランディンやロイコトリエンなどによる炎症の関与が示唆された。また、培養細胞は、培地に含まれるFCSの影響を強く受けていることが判明し、培養細胞を用いて検討するためには、線維芽細胞の無血清培養方法を確立する必要性があることが示唆された。
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