研究概要 |
肺の虚血再還流障害は低酸素症を伴わず起こり、炎症性サイトカインmRNAが虚血肺に発現し、虚血再還流障害の原因と推定されることを明らかにしてきた。このモデルにおいて、虚血の際に虚血血管床を虚脱(0mmHg,OPVP群)させておいた場合と、一定の圧をかけておいた場合(5mmHg,5PVP群)とで、サイトカインmRNAとその蛋白の発現、および、虚血・再還流障害の程度に相違があるか否かを決定することを目的とした。遊離還流換気ラット肺標本で左右肺動脈を周囲組織から遊離して、選択的に片肺動脈を遮断可能なモデルを作製した。このモデルで選択的片側肺虚血60分後に遮断を解除、30分の再還流を行なった。TNF-α,IL-1β,IL-6,IL-10 mRNAの発現をRT-PCR, in situ hybridizationで検索し、それぞれの蛋白の産生と産生細胞をサイトカインとCD34(血管内皮細胞)に対する抗体を用いたdouble staining(immunofluoreecence)で検索した。肺血管/肺胞上皮の透過性の評価はbronchoalveolar lavage(BAL)fluid中のアルブミン量と湿/乾重量比で求めた。OPVP群では、虚血肺で還流圧の上昇、BAL液中のアルブミンの増加、湿/乾重量比の増加、サイトカインmRNAとそれぞれの蛋白の発現を血管内皮細胞(CD34 positive cells)上に認めたが、5PVP群ではこれらがすべて抑制された。虚血中の5mmHgの肺静脈圧が虚血再還流障害を防止するのみでなく、サイトカインmRNA,サイトカイン蛋白の産生を阻害することが明らかとなった。肺血管内皮に一定の伸展圧を与えておくことが、虚血障害の予防に効果的であり、肺の虚血再還流障害、肺移植の際の臓器保存の研究に新たな局面を開くものである。
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