研究概要 |
実験では硫化したGaAs基板にパラジウム原子を載せた系で周東・有澤(北大薬学)、塚本(阿南高専)らによってヘック触媒反応が報告されているので、まずその系に絞って第一原理計算を行った。2×2のスーパーセルでの第一原理計算により、硫黄原子とパラジウム原子のそれぞれの安定吸着位置と吸着エネルギーを計算した。さらに、硫黄原子とパラジウム原子がそれぞれ1個ずつ共吸着した場合での両原子の安定吸着位置と吸着エネルギーを計算した。また、それぞれの場合の電子状態の違いを調べた。 計算の結果判明したことは、硫黄原子を先に吸着させても、後から吸着したパラジウム原子の安定吸着位置の方が硫黄原子より内側となることと、硫黄原子との共吸着の場合の方がかなりパラジウム原子の吸着エネルギーが強くなることである。つまり、硫黄原子の役割はパラジウム原子を強く表面上に結合させることであると言える。このことは、実験において硫化していないGaAs基板上にパラジウム原子を載せた場合に触媒活性は示すものの数回の実験で触媒活性が失われてしまうのに対し、硫化させたGaAs基板にパラジウム原子を吸着させた場合は100回程度実験を繰り返しても触媒活性の劣化があまり起きないという事実を説明する計算結果であると言える。 このことから、硫黄以外の原子を代用させてパラジウム原子を固定させることも可能であることも結論づけられた。 また、GaN(0001)基板についてもパラジウム原子と硫黄原子の吸着位置を明らかにした。ラット脛骨に埋入するチタンインプラントに対して,前年度に骨伝導能を亢進することが明らかとなった表面処理方法である化学熱処理に加えて,細胞応答の亢進させる熱処理を施した.本処理を行った上で更なる骨伝導能の亢進を付与するべく,前年度に確立した人工体液を用いたアパタイトの析出法を表面処理に施し,走査電子顕微鏡(SEM)で観察したところ,アパタイトの析出の度合いは試片ごとに大きく異なることが明らかとなった.チタン表面にSEM像で十分なアパタイトの形成が確認されたチタン表面では細胞応答や骨伝導能が亢進されるものの,十分な析出が得られていない表面ではそれらの生体応答亢進が得られなかった.従って,アパタイトの析出度合に影響を与える因子をさまざまな観点から究明したところ,それらを左右するのはチタンの微細表面形状であることが明らかとなった.この微細表面形状は,チタンの削り出しの際の条件に大きく影響され,同日に作製されたものはほぼ同一形状を示すが,作製日が異なると全く変化することもあった.この表面の微細表面形状の変化によりCHTもしくはHT処理による酸化膜形成が変化を生じ,その結果,その後のアパタイト形成が影響を受けることが明らかとなった. しかしながら,現在臨床応用されているチタンインプラントは上記のような機械研磨面ではなく,粗造面である.従って,現在臨床応用されているチタンプラズマスプレーやブラスティング処理を施しているチタン表面に対して,生体応答を亢進する酸化膜を安定して形成可能な化学処理(過酸化水素の濃度や浸漬時間)条件,熱処理条件(温度,時間)の再検索を行っている.これらの条件設定が終了次第,すでに析出方法を確立している生体吸収性を有し,既存のアパタイトを超える高い骨伝導能を有する傾斜機能性2価金属イオン含有アパタイトを析出させたチタンインプラントの骨形成能を動物実験で検討する.
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