研究概要 |
口腔癌34症例に対して,超選択的動脈注射療法を用いて,NK/LAK細胞を用いた細胞治療,CDDPを用いた化学療法,ビタミンA(ショコラA6万単位/日)の経口投与の併用を行った。その結果,臨床的治癒効果および病理組織学的治療効果(大星・下里分類)とビタミンA投与に相関関係を認めた。(P<0.05)。特に化学療法+ビタミンA+免疫療法を併用した群ではほとんどの症例で臨床的治療効果がCR(完全消失)を示し,高い治療効果があることが明らかになった。そこで,ETAN-DIGEシステムを用いた2次元電気泳動およびそれに続くMALDI-TOFMS解析法を用いたプロテオーム解析にてビタミンA処理により癌細胞表面で発現亢進する細胞膜タンパク群を分離・同定した。その結果ナチュラルキラー細胞活性化受容体として最近明らかにされた,NKG2DのリガンドであるMajor histocompatibility complex class I chain-related molecule A(MICA)の発現が亢進することが明らかとなった。口腔癌細胞をビタミンA(100nM)で処理すると処理後3時間をピークにMICAmRNAの発現が上昇した。また,FACS解析にて,ビタミンA処理癌細胞表面ではMICA蛋白の発現が上昇することが明らかとなった。したがって,ビタミンAの経口摂取により口腔癌細胞表面でのMICA蛋白の発現が上昇しNK細胞の活性化を誘導していると考えられた.MICAの遺伝子多型と口腔癌感受性について:NK細胞の活性化との関連性に関与していると考えられているMICA遺伝子の遺伝子多型(膜貫通領域をコードするexon5におけるGCTの繰り返し配列:4回;4型,5回;5型,Gのインサーションを含む5回;5.1型,6回;6型,9回;9型)について,100名の口腔癌患者および103名の健常人についてChi-square methodおよびfisher's Pvalue testを用いて統計学的に検討した結果,5.1型のMICA遺伝子型を持つ個体の口腔癌感受性は有意に高い(X^2=16.203,Pvalue=0.00006)ことが明らかとなった。さらに,癌患者においては,分泌型MICA(sMICA)の血中濃度が上昇していることを見いだした。このsMICAは担癌成体における細胞性免疫抑制に関与していると考えられた。そこで各病期におけるsMICAの血中濃度を検討したところ,再発や頚部リンパ節転移,遠隔転移に伴い上昇すること,また病期の進行に伴い上昇した。したがって,MICAの遺伝子多型およびsMICAは癌の分子標的として有用であることが明らかとなった。
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