研究概要 |
われわれは,レポーター解析により口腔扁平上皮癌におけるS100A7の転写活性の上昇には,S100A7遺伝子上流約1.0〜1.5kbに存在する転写制御部位が関与することを報告した。EMSAにより,-1248〜-1110,-1109〜-988の領域に結合し得る数種の核蛋白が示され,口腔扁平上皮癌には特有なDNA-核蛋白複合体も観察された。しかし現時点では,この核蛋白と転写調節機構との関係は明らかではない。今後,この核蛋白や蛋白の結合部位の同定をし,調節機構の解明を予定している。 われわれは,SCCA1,SCCA2の発現は,TNF-αによる細胞死に対して抵抗性を示して腫瘍形成能を上昇させること,また細胞死誘導カスケードにおいてシトクロムc放出に対するミトコンドリアへの作用,またその上流の因子に対して作用する可能性があることを報告した。今年度は遺伝子発現抑制系にて,遺伝子の機能解析を行った。 恒常的にSCCAの発現を抑制させた細胞株を樹立するため,アンチセンス法を施行した。その遺伝子の発現抑制はRT-PCRにてコントロール郡と比較し,SCCA発現抑制細胞株を樹立した。この細胞株を用いて,SCCA発現抑制により細胞形態,増殖能に与える影響をコントロール群と比較,検討した。発現抑制群とコントロール群に形態的に明らかな差異は認めなかった。SCCA発現抑制細胞群では,コントロール群と比較して細胞形態,増殖能に変化を認めなかったことより,SCCAは細胞形態,増殖能へは直接的な影響は少ないことが考えられた。現在,遺伝子発現コントロールによる腫瘍形成能への影響(浸潤能,転移能など)を観察中である。また,サイトカインや抗癌剤を用いた細胞の反応,アポトーシス誘導抵抗性などを検討し,機能解析を図る予定である。
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