DNAワクチンは、抗原遺伝子を組換えた発現ベクターにより生体内で直接抗原タンパクを発現させ、体液性・細胞性の免疫応答を惹起させる。DNAワクチンは化学的に安定なDNAを免疫に使用するため保存性や経済性に優れており、大量精製も比較的容易であるため多方面で応用されている。S.mutansが産生するGTFには、GTFB、GTFC、GTFDの3種があり、これまで非水溶性グルカンの合成活性が高いという理由からGTFBがS.mutansの歯面定着に深く関与するといわれてきた。しかし、GTFCはスクロース依存性付着の開始点に位置する酵素であり、これを抑制することは、齲蝕病原性バイオフィルムの形成抑制をすることが期待される。本年度はこのコンセプトをもとに以下の実験を行った。 1.S.mutans GTFB、GTFC N末領域を標的とするDNAワクチンの作成 S.mutans GTFB、GTFCのN末領域に存在する各酵素特異的な領域をDNAワクチン作成のための標的抗原領域とし、この領域をpSecTag2Bプラスミドベクターおよびアデノウイルスベクターに組換え、抗齲蝕DNAワクチンとして作成した。pSecTag2Bに組換えたDNAワクチンを使用したin vitroの実験で、発現したリコンビナント抗原タンパクのSDS-PAGEおよびウエスタンブロット分析の結果、抗原タンパクの発現量・安定性はGTFBよりもGTFCの方が優れる可能性が示唆された。 2.GTFB、GTFC DNAワクチンのマウスへの免疫と抗体価上昇の評価 GTFBおよびGTFC DNAワクチンの有効性の評価とどちらがより効果的に抗体価を上昇させるかを検討するために、これらのDNAワクチンを実際にマウスへ免疫して、抗体価の上昇をELISA法によって評価した。その結果、GTFCを免疫した群の方が若干抗体価の上昇が良い傾向が認められた。また、得られた抗血清を用いてウエスタンブロット分析をしたところ、ともに特異的に反応する血清が得られることが明らかとなった。現在、これらの抗血清を用いて、酵素活性およびグルカン合成活性の抑制能を検討しているところである。
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