研究課題
診療の過程での遺伝情報の流れと共有される範囲を考慮し、遺伝情報の利用において危惧されること、および保護すべき内容について以下を結論した。1. 遺伝情報には、「data」の側面と「情報」の側面がある。2. 遺伝データは個人特定性があるが、ここで意味するものは遺伝情報ではなく、遺伝データである。診療情報としての遺伝情報は、意味ずけされた遺伝データである。3. 分子レベルの物質的な構造としての遺伝「データ」が、患者の遺伝的素因に関する「情報」として受け取られることによって、「遺伝子決定論」を助長し、さらには「社会の遺伝子化」を助長する可能性がある。4. ある特定の遺伝情報を保有しているという理由によって、本人とともに家族や血縁者もさまざまな社会的差別を受ける危険性を排除できないことから、遺伝情報は、機微情報としてプライバシーの保護を必要とする。5. 家系図や家族歴で示される家族や血縁者の健康状態は、その人の私的情報が、患者の診断や治療に有用である場合には、例外的に本人の同意なく収集される。あくまでも診療の目的は、当事者の幸福のために行われるのであって、個人の遺伝情報を利用して家族や血縁者、次世代の遺伝的危害を回避・予防することではない。6. しかし、親の生殖上の決定のために、子どものすでにある(遺伝)情報は、例外的に、遺伝相談(遺伝カウンセリング)という場で、親が自発的に決定する場合に限定される。